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ブラジル:労働者党政権への期待と懸念−投資・事業環境としてのルーラ
政権−
日本アマゾンアルミニウム株式会社 常勤監査役・拓殖大学 講師 桜井 敏浩(さくらい・としひろ)
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"左派ルーラ政権"の懸念
2002年のブラジルは、4年に一度の大統領選挙で沸いていた。前回の選挙は、ブラジル経済の慢性病といわれてきたインフレーションを克服したレアル・プランの実績を引っ提げたカルドーゾ大統領が、決選投票を待つまでもなく再選を決めた。今回はカルドーゾ大統領の古くからの盟友であるジョゼ・セーラ保健相が、与党連合の後継者として立ち、野党連合からは労働者党(PT)出身のルイス・イナシオ・ダ・シルバ(通称ルーラ)が、これで4度目の連続大統領候補となった。このほか野党からシーロ・ゴメス元セアラ州知事とガロチーニョ前リオデジャネイロ州知事の2人も立候補した。ルーラ候補はかつての選挙では、IMFとの協定破棄や対外債務支払いの再交渉、公営企業の民営化見直しなどを主張していた。6月から8月にかけて世論調査で首位を独走するルーラ候補に肉薄したシーロ候補もまた富裕層への増税などを掲げたため、いずれが当選するにせよ、左派優勢とみた国際金融界は一斉にブラジルの"売り"に走り、ブラジル国債の購入手控え、通貨レアルの対米ドル交換率の低下、カントリーリスク指数の上昇が顕著になり、格付け機関も相次いでブラジルの評価を引き下げた。
8月20日に選挙法で定められたテレビやラジオによる立候補者の政見放送が始まり、シーロ人気は凋落し、持ち時間の一番長いセーラ候補の支持も盛り上がらず、ルーラ候補が10月の第一次選挙で当選する可能性すらあるとの見方に、9月上旬から10月6日の投票日直前にかけて、ブラジル経済のファンダメンタルズは悪化していないにもかかわらず、株価、為替、リスク指数などの指標に見る"ブラジル売り"は頂点に達した。そして結局セーラ候補との決選投票は、世界的にみても進んだ電子投票システムによって、開票開始後2時間余でマスコミはルーラ大統領の誕生を伝えた。
しかしルーラ候補は、もはやシャツのそでをまくりこぶしを振り上げて過激な主張で扇動する労働運動指導者ではなかった。選挙運動中からすでに背広にネクタイ姿で、「外債のモラトリアムや国内債務のリスケジュールは行わない、既存契約を尊重し、(カルドーゾ政権がIMFと約束した)インフレ目標を引き続き維持するし、そのため高金利の引き下げも急激には行わない」と、政策は穏当なものになっていた。昔のイメージからなかなか信じない者が多かったが、魅力と迫力を欠くセーラ候補に見切りをつけ、ルーラ候補の公約に耳を傾けた経済界や中所得者層以上の間でも、ルーラ政権でやっていけるという認識が広がり、61%の得票率で、ここに労働者党政権が誕生した。
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"意外な"政策継承
実はカルドーゾ大統領は、早い時期からこれを予測していたようである。8月にIMFと2003年1月の新政権発足から当分の間の外貨繰りを助ける800億ドルの新規融資取り付けや2003年度予算における収支の余裕などの手を打ち、決選投票直後には早々に政権引き継ぎチームを指名し、新政権の代表者への説明を開始するなど、ブラジルの民主主義の定着を具現して見せた。
他方ルーラ次期大統領も、経済界や国際金融界がもっとも注目していた蔵相候補に、PTでもっとも早く右派政党との連立や民営化を実施したパロッチ元リベイロンプレット(サンパウロ州)市長を、中銀総裁にメイレレス元米国ボストン銀行CEOを充てた。政府の要として大統領府官房長官にジルセウPT党首が就き、健康上の制約で大統領府広報長官で入閣した日系のグシケン元下院議員はよき相談相手として、ルーラ大統領を支えることになったが、金融界出身のメイレレス総裁以外はいずれもPTの穏健派で影響力をもつ人材である。すなわちこの"ルーラの変身"は、PT内になお30%を占めるといわれる過激派を抑えて、穏健派が主導権をとったことからくる帰結だったのである。
2003年1月1日に正式に就任したルーラ大統領は、さっそく選挙公約の目玉のひとつであった全国の貧困家庭へ食料クーポン、扶助金支給を行い、生活支援と子女の就学を促す"飢餓ゼロ"計画を発足させるなどルーラ色を出すとともに、それまで批判してきた歳出抑制による均衡予算と高金利を基調とするカルドーゾ政権のインフレ抑制を最重点とした財政・金融政策を継承し、内外のブラジル経済への信認維持に努めた。しかし、年前半の経済はマイナス成長に陥り、失業率は増大し6大都市では5月に13%まで上昇し、その後も高止まりした。前年の選挙期間中のレアル安や株価低落の影響が残り、その影響もあってインフレ率(IPCA:広範囲消費者物価指数)も3月までは月間1%以上となり、基準金利を1、2月には引き上げざるを得なくなった。選挙中に金利引き下げによる経済活動の活性化から、雇用の増大による失業の低下を謳(うた)ってきたルーラ政府としては甚だ不本意な出だしであり、間もなく政府・与党部内からも高金利の維持については強い不満の声があがってきた。しかしながらルーラ大統領はこれを受け入れず、蔵相・中銀総裁の政策を擁護し、前政権末期を上回る高金利は6月まで維持された。IMFと合意した2003年の初期財政収支黒字目標は9月に達成され、財政健全の堅持を貫いた。結局2003年のGDP成長率は、コロル大統領弾劾事件で揺れた92年以来11年ぶりのマイナスである−0.2%に終わり、"飢餓ゼロ"計画が運営組織の能力と不備から国民の期待を裏切って進展が大幅に遅れたことと比較され、「成長ゼロだけを達成した」と皮肉られた。
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攻守ところを変えた構造改革
4月を過ぎる頃から次第にマクロ経済の回復の兆しが明らかになってきた。インフレ率は低下し、貿易収支の黒字幅は拡大、選挙期間中に瞬間的に1米ドル=4レアルまで下がり、1月初めに3.5レアルで引き継いだ為替も、4月には3レアルを切った後は2.8〜2.9レアル台で推移している。カントリーリスクも大統領選挙前の水準に戻った。年後半からは生産も拡大に転じ、失業も以前高率ながらピークを越えた観が出て、着実に経済は回復の傾向を示し始めてきた。
これらのブラジル経済の回復の兆し以上にルーラ政権の評価を高めたのが、カルドーゾ政権が2期8年の間試みながらほとんど成果をみなかった公務員の年金改革と税制改革に果敢に乗り出したことだった。慢性的な財政赤字の要因のひとつである公務員年金制度の改革は、ブラジル経済の脆弱(ぜいじゃく)性を是正する上で避けて通れない課題であったが、PTの有力支持基盤のひとつである公務員の年金の特権を削ぐことになる改革は、PTでなければ出来ないと、高い得票率で当選し支持率がまだ高く、与野党の対決が先鋭化しない政権交替の"蜜月"期に一気に実現すべく4月に法案を提出た。激論のすえ12月までに原案からほとんど後退することがない内容で、憲法改正を含み事実上実現したのである。既受給者の権利縮小までは対象としていないため、当初の財政改善効果はさほど大きくはないが、財政の最大の病根を直したことはきわめて高く評価されてよい。もっとも、これをもってカルドーゾ政権のこの問題解決への意欲と実行力と比較するのは的はずれである。前政権時代に公務員の既得権擁護のため、ことごとくその進行を妨げて阻止してきたのがPT自身だったからで、野党にまわったカルドーゾ政権与党がそれまでの主張である改革法案に対しては反対票を投じ難い時期に通せたといえなくはない。他方、税制改革は、支配層・富裕層の頑強な抵抗によってほとんど骨抜きにされたが、既得権益と利害が一層錯そうした税制改革は、ほとんど実効をあげることは出来なかったが、このことはルーラ大統領の人気をもってしても、政界やその背後にあるブラジル社会のヒエラルキーの上層部を突き崩すことがいかに困難であるかを如実に示している。税収を確保するためのいくつかの法案は通ったので、ルーラ政権としてはしばらく期間をおいて再び税制改革に挑戦し、貧富の格差の縮小と経済活動活性化を図ることになる。
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ブラジル経済は"買い"へ
かくして、左派と目されたルーラ政権は、"意外にも"前政権からの政策の継続性を堅持し、堅実な経済運営を行ってきた。2004年のGDPは多くの予測が3.8%前後の成長率を示しており、為替も株価、カントリーリスク指数なども、この先当分は安定した水準が続くと見られている。ルーラ政権が今も多くの国民に支持され、またこの1年の実績は国際金融界などからの高い信認につながっている。そのため昨年後半から今年にかけて、ルーラ政権の前途を楽観視する論調も急増した。つまりブラジルは一転して"買い"の時期に入ったというのである。
レアル・プランによりインフレを抑え、ブラジル経済を国際経済と基盤を同じくするものに改めたカルドーゾ政権の成果の超える政策を、ルーラ政権は実行できるのだろうか? はたしてそこに弱点や問題はないだろうか? ルーラ政権に対する楽観論は妥当であろうか? 結論を先にいえば、筆者はいまのルーラ政権への楽観論は、2002年半ばから03年の第1四半期頃まで、すなわち大統領選挙から政権発足後しばらくの様子見の期間の悲観論の反動としての行き過ぎの観があると見る。以下、ルーラ政権の抱えている問題と弱点ともいえる要素を要点のみ指摘してみよう。
この1年余りのルーラ政権の経済運営は、これまで見てきたようにまずまずの実効をあげている。前政権の積み残した課題の調整に終わったがために、その公約である所得格差の是正や失業削減、農地改革、ブラジル産業の競争力強化による経済の対外依存度に引き下げは、今年から何としても進展をみせなければならないが、その実現を左右させるものとして例えば以下の要素がある。
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少数与党の克服
2002年の大統領選挙と同時に行われた連邦議会選ではPT中心の連合からの当選は下院が50%、上院52%とかろうじて半数に届いたが(注:合従連衡の内容が外からは分かりにくく、データによって数え方に差がある)、年金や税制改革はじめ多くの政策実行のためには立法はもちろん憲法改定が必要な場合があり、そのためには連携党を増やして多数を確保することが不可欠となる。ブラジルではその時の政局と次の選挙への思惑から簡単に政党間を移籍し、ポストや予算の恩恵を得ようとすることがごく当たり前に行われている。したがい、その後勝ち馬に乗る動きがあり、特に最大党派であるPMDBを取り込むことによって上下院とも60%前後でほぼ安定多数に近いところまでになっている。しかし党議拘束性がないことから、与党連合内からも造反が起きることは頻繁にあるので、政党間のみならず状況によっては個々の議員グループとの駆け引きに多大なエネルギーを割かれることも少なくなく、カルドーゾ政権も苦しんだ議会運営の難しさは変わっていない。
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地方政治への取り組み
選挙民により近い存在である州、市レベルの首長を自党で押さえることは、連邦議会の構成に劣らず重要である。もともとPTはサンパウロをはじめ大都会を主な活動基盤としてきた政党であり、地方への浸透が遅れ、これまでの選挙ではさほど勢力を伸ばしていなかった。特に州知事は連邦議員にも影響力が大きいが、PTの州知事は2002年の選挙で重要度の低い3州で当選したのにとどまり、市長選(2000年)では全国5,658市のうち990市にすぎない。今年10月に行われる統一地方選挙では、与党であるPTが勢力拡大を実現できるかは重要な意味をもつため、その実現に向けてルーラ政権としても失業削減や貧困者対策などの進展を、選挙民に実感させることが急務になっている。
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理念の内部矛盾
ここまでルーラ政権の実績として高い評価を受けているのは、公務員年金改革を実現したことだが、前政権時代までは野党としてその改革に断固反対してきたPTが、責任与党として財政改革を行わねばならない立場になったとたんに、公務員の既得権抑制に手を付けたことに公務員労組は強く反発した。また陰に陽に煽(あお)ってきた土地無し民運動(MST)の農地不法占拠や労働者の権利拡大、保護策の推進要求も、国民経済全体の見地から考えねばならなくなると、当然これまでとは姿勢を変えなければならない部分が出てくる。資本主義の根幹である私有財産の侵害や労働コスト肥大化による産業競争力の弱体化は、政府としては容認し得ないからである。大衆・社会的弱者の代弁者を任じ、政府や大企業を攻撃し、万年野党として政府のやることに何でも反対を唱えて済んでいた時代は終わったのだが、PTの変容についていけないこれまでの"身内"−PT内部の左派,土地無し民運動,労組など従来の支持層の不満、反乱を抑えられるか否か、PT自身の結束を壊しかねない波乱をひめている。
またルーラ政権の閣僚を見ても、PT伝統の労働者保護や一般大衆向け施策、環境対策を重んじる者と鉱工業・アグリビジネスを牽引(けんいん)車とする経済成長促進を重視する者、そしてインフレ再燃防止のため安定を最優先するマネタリストなど、主義主張の幅が広い。ルーラ大統領とその側近には、それらの一方に極端に偏ることなく、内外情勢を慎重に見極めつつ、全体として政策の妥当性と一貫性を継続するというバランス感覚があると思われるが、各方面からの突き上げにあってそれを貫徹するのは至難の業である。
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行政手腕の不足
PTはこれまで万年野党だったため施政の経験が乏しいが、そのことは行政に通暁した人材の層が薄いことを意味する。ブラジルは基本的には行政ポストは政治的任命が主であることから、はたして政権を取るや党活動家や労働組合・支持基盤出身者、シンパの学者などが大臣、政府機関総裁、局長や役員などのポストに就き、労組政府と揶揄(やゆ)されている。選挙公約の重要施策である飢餓ゼロ計画が、担当大臣をはじめ関係部門の実務能力の不足から実施が大幅に遅れて国民の期待を裏切ったため、1年経過した今年1月の改造で担当省を廃止・改組したことはその顕著な例だが、これら政府、政府機関に推されて入った者の中には専門知識・運営手腕のない者も少なくない。石油や電力、あるいは政策金融機関の要職者と接する民間企業等関係者の間で、ビジネスの話しが通じないという声も聞こえてきている。
ルーラ大統領はじめ有能な主要閣僚がいくら適切な政策を打ち出したとしても、中堅層から下の行政実務能力が足りなければ実際の効果はあがらないことになる。そのことがルーラ政権への評価を下げ、国民の信頼性を損なうことにつながることが危ぐされる。
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中央統制志向の前途
PTには左派にありがちな"中央での統制"志向があるように見える。これまで大都市を中心に活動し、地方にあまり基盤を持たなかったことからも地方への分権という発想は強くないとみられ、カルドーゾ政権が基本理念にしていた"小さな政府"を目指す気がないことは、政権発足と同時に省庁数を大幅に増やしたことでも明らかである。このことはカルドーゾ政権が一貫して採ってきた"経済は原則としては市場に委(ゆだ)ねる"という理念が後退し、大きな政府が中央で統制しようとする手法に変わることを意味する。電力などの独立法人の公共サービス監理庁(Agency)の権限を縮小し、所管省で直接コントロールしようと法改定を行った電力部門の動きはその一例である。上記の行政能力の不安もあり、この中央統制が行き過ぎると、ルーラ政権の政策執行への影響が懸念されるだけにとどまらず、内外資本のインフラストラクチャー等への投資を阻害させることになりかねない。
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軽視できないナショナリズム
ブラジルの歴代政権には、程度の差はあっても意識の底には地下資源(石油、鉱物)や重要基幹産業は外資に渡したくないという本音があったとみて間違いないだろう。PTのこれまでの言動から、ルーラ政権のナショナリズム的傾向が強くなる可能性が大きい。少なくともカルドーゾ政権に比べれば、それが顕著に出てくる兆候がすでに世界的な鉱業コングロマリットに成長したリオドセ社(1997年に民営化)でのBNDES(国立開銀)持ち株の回復や、鉄鋼業再編にあたって外資主導を牽制(けんせい)するBNDESの意向などに現れている。これについては、今のところBNDES総裁以下幹部の考えによるところが多いといわれるものの、ある程度まで政府としての方針になっていく可能性はあり得るだろう。しかし、ブラジルの国際収支基盤はまだ対外依存度が高いという脆弱性を抱えており、このナショナリズムが経済合理性を無視し度を超すことになれば、それは直ちに外資の流入の先細りにつながりかねないのである。
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問われる外交バランス
PTは野党時代に一貫して外交の自主性−特に対米追随を非難してきた。米国から迫られているFTAA(米州自由貿易圏)への反対はその最たるものである。MELCOSUL(南米南部共同市場)を拡大し、EUとFTA(自由貿易協定)を結ぶことによって、米国主導でのFTAA結成を牽制することは、カルドーゾ政権時でもブラジル外交の重要課題だった。とはいっても、現実にはブラジルの輸出入の各25%を米国が占めている状況では、経済破綻も辞せずというのでなければ米国に敵対することは出来ない。ルーラ政権も米国との良好な経済関係が不可欠であることは十分承知しているが、他方でブラジル外交の伝統的な自主性重視、"第3世界"のリーダーはブラジルとの自負心がある。イラク開戦には公然と反対し、2003年9月のWTOメキシコ総会においては米国など先進国の農業補助金撤廃を求め、開発途上国グループを先導して鋭く対立している。しかしこれについては、国内において外務省の独走との批判の声もあがっており、独自外交の維持と対米協調のバランス取りには気を使っていることがうかがえる。これまでのところ、当選以前から個人的親交があったキューバのカストロ首相やベネズエラのチャベス大統領、あるいは債務の償還をめぐっての国際金融界と対決しているアルゼンチンのキルチネル大統領に対しては、米国や欧州などを刺激しない巧みな距離の置き方をしている。こういったブラジルとしての利益を考えたバランス感覚が、不安視されていたルーラ大統領の外交面での手腕を見直させているが、複雑な国際関係の中で大国ブラジルを率いるには失敗は許されない。
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結語としてのルーラ政権の見方
ルーラ政権の実力に対するこれらの見方は、ある部分は厳しく、ある部分は甘いかもしれない。しかし、2002年の大統領選挙でのルーラ候補優勢という事態から地に落ちた国際金融界の信認の反動として、現在の評価はあまりに過大であることを明らかにするために列記したものである。そのことは当然の帰結として、ルーラ政権のこの1年間の高い評価が今後とも続くことはないであろうことを意味する。とはいえ、ルーラ政権がカルドーゾ政権などの歴代政権に比べて悪いということでは決してない。国際収支や財政に、なかんずく巨額の内外債務にみられる脆弱性をもったブラジルである。外的要因が変化すればすぐ影響を受けやすいことは否定できないが、よほどの逆風が吹かない限り、ブラジルの政治・経済は当面そう大きなリスクはないとみていいだろう。
なお、近年ラテンアメリカにはベネズエラのチャベス大統領、アルゼンチンのキルチネル大統領といった必ずしも親米とはいえない、またIMF体制に代表される国際金融界との協調に重きを置かない、これまでとはひと味違った指導者が輩出している。ルーラ大統領も野党時代の反米姿勢とあわせるとこれらの指導者と共通項が多く、これはラテンアメリカの新たな潮流だと説く向きもあるが、石油や農牧産品輸出に幸か不幸か依存している国とは違い、ブラジルはいまや工業大国であり、簡単に反米路線や国際金融界との対決姿勢を取れない経済構造と規模になっている。ルーラ政権もそれらをよくわきまえており、慎重にバランス感覚をもって国内政策と外交とを進めている。その意味ではルーラ大統領は"左派"から脱皮した新しいタイプの指導者になるかもしれず、その統治スタイルと手法がラテンアメリカの新しい潮流になる可能性がある。◆
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ブラジル経済の推移
(原資料は、中銀、地理統計院等。2004年予測はブラジル金融機関予測から引用)
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