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環境重視と産業効率化で高まる、わが国プラント輸出ニーズ
−排出権取引でもビジネスチャンス−

株式会社 重化学工業通信社 ENN編集長 丸田  敬(まるた・たかし)


 海外向けプラントと言えば、化学プラント、電力プラントなどの生産プラントがその主力であることは、言うまでもない。しかし最近は、こうした生産プラントに加え、省エネや公害発生を防止するプラントが目立つにようになってきた。需要国の産業振興やインフラ整備に貢献してきたプラント輸出だが、生産設備に加え、省エネや環境保全設備まで、輸出されるプラントのアイテムは多様化している。
 その背景には、地球温暖化などの環境への意識の高まりと、急速に進んだ産業が効率生産を求めるという、二つの側面がある。環境への意識の高まりは先進国から途上国へ広がり、途上国の産業振興は、先進国が1世紀をかけて成長してきたとすれば、30年ほどの短期間でその成長を実現しようとしている。
 深刻化する環境問題と、産業分野における急成長に伴う効率化が、プラント輸出にも多様性を求めている。わが国は経済成長とともに深刻な公害問題を抱え、それに追い打ちをかけるようなオイルショックを経験した。この経験により公害発生防止設備や省エネ技術について、わが国はフルセット装備した、世界でも数少ない公害防止・省エネ国である。この保有技術が今、世界の環境問題や効率生産に貢献する時期になってきた。こんな国際社会のニーズに応えうるには、最も相応しい国と言える。


1.環境技術のポテンシャル引き出す京都メカニズム
    公害防止という点では、1997年の地球温暖化防止京都会議で定められた京都議定書に伴う京都メカニズムを活用することで、プラントビジネスが徐々に具体化している。
 京都議定書では、先進国の温室効果ガス排出量について、各国毎に数値目標が設定された。温室効果ガスの対象となるのは、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどで、主な国の削減量は、いずれも1990年基準よりも、日本6%、EU8%、米国7%などである(米国などでは批准されていない)。先進国全体で少なくても5%の削減が定められた。この設定基準を2008年から2012年までの第一次約束期間に達成しなければならない。
 ただ多くの先進国で、温室効果ガスの削減は、困難な状況にある。理由はいくつかあるが、@温室効果ガスの削減は経済成長を持続しながらでは難しい、Aオイルショックなどで省エネがかなり進んでいるため温室効果ガスのいっそうの削減は難しい、などの事情が温室効果ガスの排出削減を難しくする理由である。
 こうした背景から、京都議定書とともに定められた京都メカニズムが定められている。ここでは、他の国の排出権購入が認められたほか、排出削減コストの低い国への資金、あるいは技術支援により実現した排出削減量を自国の排出削減分に充てることも可能になった。@共同実施(ジョイント・インプリメンテーション:Joint Implementation/JI)、Aクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism/CDM)、B排出権取引、の3つが制度的に認められた。
  @  JIでは、先進国間で温室効果ガスの排出削減、または吸収増進の事業を実施し、その結果として得られた排出削減単位を関係国間で移転すること。
  A  CDMでは、途上国が持続可能な開発を実現し、条約の究極目的に貢献することを支援し先進国が温室効果ガスの排出削減事業から生じたものとして認証された排出削減量を獲得すること。
  B  排出量取引では、排出枠の移転。
    上記3点がそれぞれ認められた。
 これら一連の京都メカニズムを活用することで、海外向けプラントビジネスの新たなビジネスチャンスが徐々に生まれつつある。高度経済成長期に省エネや大気汚染防止技術を蓄積した経験のあるわが国は、この京都メカニズムを活用するのに最適な位置にあり、これを海外向けビジネスに活用するためのポテンシャルを有しているわけだ。


2.JBICが排出権取引の仕組みを構築
    京都メカニズムに着眼した、国際協力銀行(JBIC)は、排出権取引の活用により、海外向けプラントビジネスを活発化するスキームを構築した。(図1参照)

図1 国際銀のビジネスモデル≪概念図≫


    2004年11月、JBICは「日本温暖化ガス削減基金」(Japan GHG Reduction Fund:JGRF)と日本カーボンファイナンス株式会社(Japan Carbon Finance:JCF)をそれぞれ設立した。
 JGRFは、JBICおよび日本政策投資銀行をはじめ、わが国の民間銀行31社と共同で設立された基金で、ファンドの総額は1億4,150万ドル。またJCFは、JGRFの大口出資社7社(JBIC・新日本石油・住友商事・東京電力・日本政策投資銀行・三井物産・三菱商事)により設立された。
 JGRFは、途上国や東欧諸国などで行われる温暖化ガスの排出削減プロジェクトから生じる排出権をクレジットという形で購入し、それを出資者間で配分することを目的とした基金だ。JCFがJIやCDMあるいは排出権取引を通じてクレジットを購入し、その後、JGRFに転売するスキームが構築された。
 このスキームは、京都メカニズムの手法であるJIやCDMを円滑に進めるのを支援するのが目的だ。
 JIやCDMは、温暖化ガス削減に伴う排出権を移転するうえで、有効な手段と見られている。が、ここにはリスクが伴う。
 想定されるリスクとは、@カントリーリスクなど、海外で事業が行われることに伴うリスク、A経験の蓄積されていない新しい制度であることによる不確実性に伴うリスク、である。実際、わが国の場合、二酸化炭素(CO2)を多く排出している電力会社に排出権の需要がありそうだが、電力会社は排出権の取得を原子力発電の促進により達成しようとしている。このため国内では排出権クレジットを移転しにくいという問題がある。
 こうしたリスクは一例だが、リスクがあっても、JGRFを通じて、30〜40のプロジェクトに分散投資することができれば、リスク分散が可能だ。同時に、政府系金融機関としてJBICが持つ海外プロジェクトへの融資機能、海外ネットワークおよび海外プロジェクトを通じたホスト国との密接な関係、世界銀行炭素基金への出資を通じたノウハウの取得、日本政策投資銀行の持つ開発金融機関とのネットワーク、環境関連対策およびファンド関連業務のノウハウや民間企業の有する温暖化ガス削減に関する実務面などにおけるノウハウの有効活用など、官民協調により、その知見を結集することが狙いとされた。
 さらにこの制度を活用すれば、JGRFが購入を予定している排出権が京都議定書上、有効なクレジットであると認定されるための手続きにかかわる費用を負担したり、またプロジェクト準備段階におけるアドバイスも行うなど、温暖化ガス削減プロジェクトの開発段階から関与することで、途上国などの持続可能な開発に貢献することが期待されている。
 一連のスキームにより排出権を得れば、それが経済的評価を受け、その後のプロジェクトコストに振り替えることも可能で、このスキームをうまく活用すれば、プラント輸出の場合には競争力強化も可能になる。
 JBICにとっても、活用次第でプラント需要を喚起できるわけで、このスキームの発案と活用はビジネスチャンスの発掘につながるメリットがある。このスキームを活用して実現したプロジェクトの一つにブルガリア向け風力発電所建設プロジェクトがある。


3.ブルガリア向け風力発電ではJBICスキームを総動員
   プロジェクトは、ブルガリアのカリアクラ地区で、出力33MW(1MW×33基)による風力発電事業を実施するもの。プラントを建設する三菱重工業と現地の中堅建設会社の共同出資により、事業会社としてカリアクラ・ウィンドパワー社を設立し、発電所の建設と風力発電事業を行うものだ。
 このプロジェクトの意義はJIで実施されたことと、JBICの機能がプロジェクトの各所で採用されたことだろう。
 多くの排出権取引が途上国を対象としたCDM事業として実施されるのに対し、JIは削減目標のある先進国が対象になる。ブルガリアも1990年基準で8%の削減が設定されているため、わが国とブルガリアが共同で温室効果ガスの削減を目指すことになる。CDM中心からJIへと新境地を拓いたことになる。2004年12月に、ブルガリアのサクスコブルツキ前首相が来日した時に、すでに温暖化防止協定が締結されており、前首相が温暖化ガス排出削減に高い関心を示したことが分かり、プロジェクトが着々と進んだ。
 プロジェクトが浮上すると、JBICの機能もさまざまな局面で有効に活用された。
 まずFSには、FS資金、プロジェクトの実施にはJBIC資金が供与された。そして風力発電所が稼動すると、それに伴う排出権をJCFが引き取る。この取引のアレンジもJBICが行った。さらにJCFから得られる排出権取引に伴うクレジットをプラント建設代金に充当すれば、プロジェクトのコスト競争力が高まることになる。
 JBICでは、このブルガリア向け風力発電プロジェクト以外にも南アフリカ、インド、中国向けに数件の排出権取引を手掛けた実績がある。
 排出権取引には、せっかく獲得した排出権クレジットの売買リスクなども伴うが、JBICのスキームを活用すれば民間のリスクも軽減できるほか、従来からある海外プロジェクト向け投融資機能などをうまく絡ませれば、さまざまなビジネスチャンスが期待できる。そうした意味でJGRFとJCFという排出権取引のためのプラットフォームを持ったことは、排出権取引を推進するうえで重要な役割を果たしたと言える。


4.排出権ビジネスで新規顧客開拓した日揮
   排出権取引への事業投資が、将来的なエンジニアリング企業のビジネスチャンス拡大への期待につながるケースもある。
 エンジニアリング企業の日揮は、昨年8月に丸紅と大旺建設(本社:高知県)とともに、排出権取引のためのSPC(特別目的会社)として、JMD温暖化ガス削減株式会社(以下JMD)を設立した。この事業は、中国浙江省に本社を置く、有力フロン系化学メーカーである浙江巨化股份有限公司向けにフロン「HFC23」分解事業を行い、温室効果ガスであるフロンの排出削減による排出権ビジネスを行うものだ。
 浙江巨化股份有限公司は、浙江省の巨化集団公司のグループ企業で、中国では冷媒フロンについてはトップシェアを誇る有力企業だ。
 また、フロンは温室効果ガスの中でも温暖化係数が1万1,700と極めて高い。このためフロンの除去により得られる排出権も大きい。ちなみに温暖化係数は、二酸化炭素が1、メタンが23と温室効果ガスと定められているが、フロンの温暖化係数は他の温室効果ガスに比べて、圧倒的に高い。温暖化係数が高いため、効率的な排出権取引ができる温室効果ガスだ。
 一方日揮は、プラント建設では抜群の実績を誇るエンジニアリング企業だが、最近は多角化の一環として投資ビジネスに積極的だ。2006年から2010年までを対象とした中期経営計画では、総額400億円の投資枠を設定している。これまでにも中東向けの発電事業やIWPP(独立系水電力供給事業者)への出資を行っている。こうした投資ビジネスの新たな試みとして、排出権取引ビジネスにも参入を果たしたのである。
 事業は、日揮47%、丸紅43%、大旺建設10%の出資比率により設立されたJMDにより運営される(図2参照)。浙江巨化股份有限公司が排出するフロンを、事業のために建設するフロン分解プラントで分解し、フロンの排出を減らし排出権を獲得する。事業で活用されるフロン分解プラントは、大旺建設の開発した加熱蒸気分解技術により建設される。この技術は、1,000℃以上の高温の蒸気を発生し、そこで加熱蒸気、酸素によりフロンを分解するもので、環境省が「フロンモデル破壊事業」の適正技術として認定している。

図2 日揮グループの排出権取引事業スキーム


    前述したように昨年8月に事業会社としてJMDを設立したが、その後11月に同事業で日本政府に承認を得て、12月には中国政府も承認している。
 この事業で獲得される排出権の買取量は4,000万トンのCO2に相当するが、すでにJMDは排出権の買取先をほとんど決めている。
 この事業で、プラントを建設するのは、主に中国のエンジニアリング企業だ。したがって、日揮は本業であるプラント建設の機会を得るわけではない。あくまでも排出権取引ビジネスの事業会社に出資するだけで、エンジニアリング企業として旨味があるビジネスとは一見、見えない。しかしこのビジネスを通じて、日揮は浙江巨化股份有限公司という新たな顧客を得たことになる。今後、同社が設備投資を行うような場合には、いち早く情報を入手できる。これまで取引の無かった顧客を排出権取引ビジネスによって引き寄せられるのである。排出権ビジネスは、エンジニアリング企業としての日揮にも新市場開拓の機会を与えたことになる。
 直接的なビジネスチャンスにはならないものの、日揮にとっては新市場への布石になった。排出権取引はエンジニアリング企業にとっても、ビジネスチャンスの拡大につながる可能性がある。


5.ニーズ高まる80年代省エネ技術
   前述したように、わが国は公害防止および省エネについては、世界最先端の技術を保有している。高度経済成長とともに大気や水質汚染が深刻化し、1970年代には二度に渡るオイルショックを経験した。
 この時期にわが国で開発した省エネ技術がこのところ、中国向けに売れている。特に発電プラントの需要が旺盛だ。
 最近の中国では、事業用の石炭火力発電プラントについては、ほとんど自国の重電プラントメーカーで対応できるが、省エネ設備については、わが国プラントメーカーの活躍の場が多い。
 今年1月、三菱重工業は中国の包頭鋼鉄集団公司から高炉ガス焚きガスタービン・コンバインドサイクル発電プラントを受注したが、2004年以降、同じプラントを6基受注している(表参照)。同社原動機事業本部の中国向け輸出の主力アイテムになっている。

表 三菱重工業の中国向け高炉ガス焚きガスタービン・コンバインドサイクル発電設備納入実績
受注時期 鉄鋼メーカー 機種 出力
2004年9月 鞍鋼集団 M701S(F) 30万kW
2004年9月 沙鋼集団 M251S 3万kW×2
2005年2月 馬鞍山鋼鉄 M701S(DA) 15万kW
2005年3月 邯鄲鋼鉄 M251S 3万kW×2
2006年1月 包頭鋼鉄 M701S(DA) 30万kW×2


    一連の高炉ガスタービンの特徴は、天然ガスに比べてカロリーの低い高炉ガスでも、安定的に稼動する燃焼技術にある。この技術を三菱重工業は1980年代に開発し、国内外の製鉄所に納入しており、その世界シェアは7割に達している。世界の各地で安定した稼動するガスタービン技術が高く評価されての受注だが、圧倒的な実績を持つ。
 中国鉄鋼業は、原材料となる石炭および石灰の埋蔵量が豊富なことや、中国国内の経済成長力を背景に、生産量を増加させており、2005年度の粗鋼生産量は3億トンにのぼると見られている。製鉄所の生産量は増加の一途を辿るが、それに伴い、生産効率の向上や環境保全を目的に省エネ設備を積極的に導入している。実際、高炉ガス焚きガスタービン・コンバインドサイクル発電プラントは、エネルギーを有効活用できるためCO2の抑制効果もあり、省エネと環境保全の双方に効果を発揮するプラントだ。
 一方、川崎重工業グループのカワサキプラントシステムズも、昨年12月にエネルギー有効利用を目的とした、排熱発電設備を、中国の安徽省の中国安徽海螺集団傘下で中国最大のセメントメーカーである安徽海螺水泥股份有限公司から一括受注した。2006年7月から2008年1月にかけて、順次納入する予定だ。
 受注したプラントは、中国安徽海螺集団グループ傘下のセメントメーカーが所有する8工場11プラントに納入するもの。その生産量は、わが国の総生産量の約半分に相当する。これら11プラントに出力8,300kWから3万500kWまでのセメント排熱プラントを設置し、総出力は20万kWにも達する。
 セメント排熱発電設備は、セメント製造の予備焼成工程において発生する排ガスを排熱回収ボイラーで熱回収し、蒸気タービンにより発電する設備だ。セメントプラントの排ガスを有効に活用できるため、省エネを推進するとともに環境対策にも効果的であることから、日本国内のほとんどのセメントプラントにも設置されている。
 カワサキプラントシステムズは、2005年4月に川崎重工業の民需向けプラント部門を分社して発足したが、川崎重工業時代には1980年に国内向けにセメント排熱設備を納入して以来、20件の納入実績がある。中国向けにも、中国安徽海螺集団傘下の寧国セメント向け、柳州セメント向けにそれぞれセメント排熱発電プラントを納入し、その稼動状況も順調だ。こうした国内外の省エネ設備の実績が評価されての受注と言える。
 最近になって、中国向けに省エネや公害防止を目的としたプラントが活発に輸出されている。このほかにも排煙脱硫装置や排煙脱硝設備も輸出されており、環境保全設備の需要は急速に高まっている。
 わが国で省エネ設備が開発され、積極的に導入されたのは1980年代である。そのきっかけは1960年代以降の公害と1970年代の二度に渡って起こったオイルショックである。
 しかし中国は、効率的なプラントの操業と公害防止を求めて、省エネタイプの発電プラントの導入に踏み切っている。わが国が1980年代にこの技術を開発した時、一人当たりのGDPは約1万ドルだった。中国のGDPは2003年時点で800〜900ドルである。この経済水準で中国は効率化投資に踏み切るのである。
 後発ゆえの優位性により、中国はおそらく先進国が100年ほどかけて遂げた経済成長を短期間で成し遂げそうだ。まだまだ一人一人の国民が豊かとは言えない時代に省エネを目的とした効率化投資に踏み切るのである。つまり産業インフラは、先進国が経験した以上の競争力を持つと同時に環境に配慮したものになる。
 しかも省エネ投資は、CO2削減にも効果がある。地球温暖化への意識が世界的に高まっている時期、世界的に追い風を受けやすい状況にある。
 効率化と公害防止、さらには地球温暖化・・・・。排出権取引までを含め、環境プラントの輸出は今後も増加しそうだ。◆

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