>>>今月の特集(トピックス)



我が国建設業の海外展開について


国土交通省国際建設経済室


1.我が国建設業の海外展開の歴史と現状
 我が国建設業の海外進出は19世紀末に遡り、大日本帝国の領土拡大とともに各地域に進出したが、太平洋戦争終結により一時中断。戦後、我が国建設業の海外進出は東南アジア諸国における賠償工事で再開し、1960年代には徐々に商業ベースに移行することになった。
 1970年代以降、オイルマネーに沸く中東の建設特需を受注する形で建設業の海外進出が本格化し、受注実績も大きく伸びた。地域別には、アジアでの受注を伸ばしたが、オイルショック以降は中東産油国の受注も急増した。
 1980年代以降は、我が国製造業の生産拠点の海外移転や、我が国ODAの拡大に伴い海外受注が増加し、1983年度に初めて1兆円を超え、その後も1兆円前後で推移した。
 1990年代に入ると、アジアでの受注の伸びに合わせて海外受注実績も伸び、バブル崩壊後国内景気が低迷する中、1996年度には約1兆6千億円と史上最高の受注実績を記録した。しかし、1997年のアジア通貨危機後は1兆円前後で推移し、現在に至っている。2005年度の海外受注実績は、約1兆2千億円である。


図1



2.海外展開上の課題と必要性
 我が国の国内建設投資は、1992年度の84兆円をピークに減少を続け、2005年度には51兆円となっている。一方、建設業者数を見ると、2005年は約56万業者で、1993年と比べると6%増加している。このように、建設業は、国内建設投資が大幅に減少する中で深刻な過剰供給構造となっており、競争環境が益々厳しさを増している。
 一方、我が国建設業の海外展開の状況を見ると、1980年代以降、20年以上にわたって1兆円の水準から離陸できないでいる。
 優れた技術を持ち、競争優位産業として潜在力を有しながら、海外受注実績が近年伸び悩んできたのは、我が国建設業の行動様式が国内市場を「主」、海外市場を「従」と捉える傾向にあった結果、国際市場に対応する人材の欠如や、商慣習の違いといった、海外市場の様々なリスクに対応するのが困難であったことなどによると言われている。



図2

 しかし、国内建設投資が縮小傾向にあり、さらに、これまで経験したことのない人口減少社会に直面し、国内建設市場が一層縮小していくことも想定される中で、我が国建設業が健全に発展し、その競争優位性を保持し続けるためには、国内市場にのみ依存することは不十分であり、積極的に海外展開を図り、将来にわたる事業機会を確保していくことが課題となっている。
 我が国建設業の海外展開は、我が国の国民経済全体の向上にも寄与する。すなわち、我が国建設業がその経済活動自体から収益を上げることで国民経済に寄与することはもちろん、我が国製造業が生産拠点を海外に構えた場合等に、これに応える高品質な工場建設等を実現することで、我が国企業の活動や海外投資を基礎的な面で支援することになる。
 さらに、我が国建設業の海外進出は、インフラ需要の高い海外の国・地域において、質の高い社会資本形成に寄与するのみならず、優れた技術・ノウハウの移転を通じて地場産業の発展にも貢献することが期待されている。
 こうしたことから、今後は、「競争優位産業」「進出先の国・地域への貢献」を車の両輪として、我が国建設業を、我が国を代表する「輸出産業」に明確に位置付け、国内の経済動向に左右されない、「能動的」な海外展開を志向することが求められている。



3.我が国建設業の潜在力
 我が国建設業は、@戦後の多大な国内建設投資、A我が国国土特有の地理的・自然的条件、B我が国の国民性、国内関連支援産業や優秀な人材の存在、C国内における強力なライバル企業の存在、D我が国ODAや日系企業によるFDI(Foreign Direct Investment:対外直接投資)など海外進出のきっかけの存在、といった我が国を取り巻く諸条件・要因を背景に発展し世界に誇る技術力、ノウハウ等を蓄積しながら発展してきた結果、他国建設業に比して、潜在的には競争優位産業であると考えられている。

(1)戦後の多大な国内建設投資
   戦後、我が国は、高度成長期、あるいはその前後も通して、多大な国内建設投資を遂行してきた。その額は、例えば、ピーク時の1992年度には84兆円に達しており、この数字は2003年のASEAN主要6カ国の総建設投資額の11.5年分にあたる。
 この多大な建設投資の担い手として、膨大な建設投資を一手に引き受け、工事を施工してきたのが我が国建設業である。これにより、我が国建設業は世界でも稀に見る施工実績を築き上げるとともに、世界に誇る施工技術、管理ノウハウ等を蓄積した。

(2)過酷な地理的・自然的条件
   我が国の国土は、山間狭隘、急峻で、地質も脆弱であり、地震や火山活動も活発である。また、台風、豪雨、豪雪に頻繁に見舞われるなど気象条件も厳しく、洪水や土砂災害が毎年のように発生してきた。
 我が国建設業は、このような厳しい地理的・自然的条件の下で社会資本整備を進めてきた結果、耐震・制免震技術、トンネル・橋梁技術、埋め立て技術等世界に誇る技術を開発、育成することができた。
 今後、これらの技術を世界各国での社会資本整備に当たり活用していく余地は極めて大きい。特に、防災・減災技術など、我が国の建設業が培ってきた技術は、防災対策の遅れているアジアをはじめとする世界各国において、高いニーズが見込まれるところである。

(3)国民性、関連支援産業や人材の存在
   高い教育水準、勤勉で創意工夫に富む気質、そして、他国の技術を速やかに受け入れ、これを自らの環境に当てはめる適応能力など、長年にわたり育まれてきた我が国の国民性は、世界の中で我が国が「技術大国」として現在の地位を築き挙げることができた大きな要因である。
 同様の国民性は、我が国建設業の発展においても発揮されており、我が国建設業は、高度な技術力、完成物の高い品質、工期の遵守、環境や安全への配慮等の面において、世界の顧客から高い信頼を得ている。
 また、建設関連・支援産業として、世界的に優れた工作機械・重機メーカー、建築デザイン会社や重工・プラント会社、鉄鉱業者等の存在も、我が国建設業の発展に大きく寄与した。
 さらに、エンジニアなどの高度な人材の存在も、我が国建設業の発展を支えている。
 これらの要因も我が国建設業の発展に少なからず影響を与え、世界の中で競争優位産業としての、我が国建設業の地位の確立に貢献しているものと考えられる。

(4)国内における強力なライバル企業の存在
   我が国の建設業許可業者数は50万社を超えており、他国に比して建設市場規模が大きいとはいえ、各建設会社間の競争は極めて厳しい。
 こうした厳しい競争下で各社が切磋琢磨することにより、我が国建設業全体のレベルが向上し、他国に比して我が国建設業の競争優位を築きあげることとなった。

(5)海外進出のきっかけの存在
   我が国のODA案件や製造業をはじめとする日系企業の各国への進出案件の存在は、我が国建設業に海外における受注機会を提供し、海外展開に当たっての大きな「きっかけ」となった。今後も、各国建設市場への進出の「きっかけ」として、これらの受注機会は大いに役立つものと期待される。さらに、これらの受注機会は、コストに相応しい高い品質、ライフサイクル・コスト、工期遵守といった我が国建設業の有する「強み」を、発注者のみならず、相手国の将来のクライアントに理解させる大きな機会となっている。
 さらに、国内市場が停滞・縮小する中、我が国建設各社は他分野・他産業への進出など多様な展開を求められているが、築き上げた「資産(人、技術、機械等)」の有効活用を図っていく上でも、海外への進出は大きな選択肢の1つと考えられた。



4.海外進出支援に向けた最近の取組み
(1)多国間・二国間政府交渉等の機会の活用
   国土交通省では、我が国建設業の海外展開を支援するため、WTO(世界貿易機関)や経済連携協定(EPA)締結交渉等の機会を通じて、外国企業に対する閉鎖的な建設市場、内外差別的な業制度、煩瑣な許認可等の行政手続など、進出国の様々な障壁について改善を求めている。
 例えば、マレーシアとの間では、EPAの機会を活用した二国間交渉の結果、登録時の添付書類について、6カ月間は同一書類の再提出が不要になる等、外国建設会社の登録手続きの簡素・迅速化が図られた。タイとの間では同じく、外国事業法に基づく許可申請受付時期の前倒し、同一工場現場における許可手続きの省略、申請時提出書類の提出義務の緩和などの点について、外国人事業許可の手続きの改善がなされた。
 特に、二国間交渉の場では、個別セクターについても、双方の関心事項に沿って、細部にわたり専門的・実務的な議論・交渉を行うことが可能であることから、建設サービス等の自由化、政府調達市場の開放、我が国建設業が事業展開する際の障壁の撤廃・改善、ビジネス環境の整備を今後も積極的に推進したいと考えている。

(2)建設交流会議の開催
   相手国における我が国建設業のビジネス環境の向上とビジネス機会の増大を図るとともに相手国との協働関係を構築していくため、国土交通省は建設業界と連携して建設業交流会議を開催している。
 これまでに、日フィリピン建設産業会議(H17.3)、日マレーシア建設業交流会議(第1回H17.7・第2回H18.1)、日インド建設交流会議(H17.12)、日ベトナム建設産業会議(H18.1)、日インドネシア建設会議(H18.3)を開催し、両国所管省庁、建設会社及び関連団体から多数の参加者が集い、両国建設業界の相互理解、連係協力関係の構築を目的に、活発な情報・意見交換が行われた。

セミナーの模様ビジネス・マッチングの模様

(3)インフラ整備の案件形成支援
   我が国建設業が有する優れた環境技術をもって途上国においてCDM(クリーン開発メカニズム)事業を通じた貢献ができるよう国際セミナー等を開催し、社会資本整備分野におけるCDM事業案件の増加に向けた検討を行ってきた。また昨年度「アジアインフラ研究会」を開催し、我が国建設業がBOTやPPP手法によるインフラ整備事業に積極的に取り組む環境を整備するために考え得る施策について検討を行い、報告書をとりまとめた。

(4)貿易保険の活用などのリスクコントロールの強化
   海外展開に当たっては、建設リスクのほか、為替リスクなど様々なリスクが存在する。リスクを適切に回避・コントロールするため、既存の制度や他産業で活用しているリスク管理手法を積極的に活用するとともに、対外取引における信用危険に対応するための貿易保険制度等の活用が重要である。貿易保険制度はリスクコントロール方策としては有効な手段であり、制度の一層の活用を図るための方策の検討について支援を行っている。



5.来年度に向けた取組み
我が国建設業の国際競争力強化

   国土交通省では、本年8月4日に『安全・安心基盤の確立』『「新・成熟社会」形成に向けた政策プラットフォーム』等の5つの柱からなる、「国土交通省重点施策」を取りまとめた。この中で、「建設業の海外展開の支援」が重点的に行う施策の一つとして取り上げられたところである。以上を踏まえ、国土交通省では、我が国建設業が海外展開するに当たってのビジネス環境の整備、ビジネス機会の増大につながる、下記の取組みを重点的に推進していくこととする。

(1)我が国建設業の国際競争力強化に向けた体制の整備
   他省庁、他業界、関係団体、関連学会等と有機的な連携を図り、それぞれの有する知見・ノウハウを我が国建設業の国際競争力強化に向けて最大限に活用するため、これらの関係者から構成される「産官学プラットフォーム」を構築・運営する。

(2)我が国建設業の「体質強化」に向けた支援
  @国際建設市場対応人材育成の強化及び相談体制の整備
 海外建設工事契約、クレーム処理、労務管理、地元対策など、海外工事現場で必要とされる知識・ノウハウを習得させるための研修を国内外で実施する。併せて、海外建設市場に精通したOBを活用した、「海外展開アドバイザー」を配置し、海外展開に当たっての各種相談業務を行う。

A海外建設・不動産市場関係調査の実施及びデータベースの整備
 建設業及び不動産業の海外展開に当たって必要とされる、進出国の法令制度、市場動向、業界事情等について調査を行うとともに、これらの情報と併せて、海外展開に関連した情報を網羅したデータベースを整備する。
 また、これらの「国別建設市場環境情報」と併せて、工事関連情報、人材ネットワーク情報、進出企業情報など、海外展開に関連した情報を網羅的に整理した、データベース(「海外建設工事ライブラリ」)を構築する。

(3)我が国建設業の海外におけるプレゼンス強化
 我が国建設業の有する、技術力や高品質・工程管理等の強みや国内外の施工実績を、進出国に対して幅広く認知させ、我が国建設業のプレゼンス強化を図るため、閣僚等によるトップ・セールスを含め、以下のような取り組みを実施する。
  @ 閣僚等が相手国を訪問する機会に、相手国の関係者を招いて我が国建設業をPRするための会議・セミナー、プレスコンファレンス等を開催する。
  A 海外における国際見本市や展示会へ我が国建設業の出展を行う。
  B 産官学一体となった新興市場へのミッション派遣や、二国間の協働関係構築に向けた会議の開催等を行う。
  C コンベンション、会議、セミナー等の際に、汎用的に利用できる、我が国建設業の有する強み、世界に誇る技術、施工実績等をまとめたPR用コンテンツを作成する。



6.むすび
 公共投資の減少、少子高齢化社会の到来など、我が国の建設業を取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。このような状況下で、且つ、グローバル化、ボーダーレス化が進展する国際社会の中で、我が国建設業が健全に発展し、競争優位性を保持し続けるためには、今こそ「能動的」な海外展開が求められる。本年7月の財政・経済一体改革会議で決定された、2015年度までの10年間に取り組むべき施策をとりまとめた「経済成長戦略大綱」において、我が国建設業の「高い技術力・ノウハウ等の強みを活かした国際展開や輸出振興に向けた取組を支援する」旨明記された。このことは、建設業の国際競争力強化の重要性、必要性を政府全体として認識していることの証左である。競争優位産業としての潜在力を有する我が国建設業の積極的な海外展開を推進していくため、国際競争力の強化に向けた取組みを積極的に支援して参りたい。◆
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